肝臓グループ
Hepatology
肝臓グループはウイルス性肝疾患から脂肪性肝炎、自己免疫性肝疾患、急性肝不全、肝硬変、さらに肝細胞癌などの肝腫瘍に対しての様々な治療を担当しています。肝疾患に関する様々な研究も行っており、ベッドサイドとベンチトップが一体となって、日々診療、研究を行っています。
グループメンバー
グループ長
診療グループ
医員・大学院生(4)
細田 峻一
医員・大学院生(4)
吉田 苑永
基礎研究グループ
医員・大学院生(3)
甲谷 理沙子
医員・大学院生(3)
佐々木 貴志
医員・大学院生(2)
目野 晃光
医員・大学院生(2)
保浦 直弘
楊 子健
診療・研究状況
- ウイルス性肝炎
- 肝癌
- 脂肪性肝疾患
- 肝硬変、肝不全
- その他
ウイルス性肝炎
B型肝炎、C型肝炎ともにウイルス性肝炎の治療はここ数年で大きく進歩しました。当グループではウイルス性肝炎患者さんが肝硬変、肝癌へと進展するのを少しでも抑えるように、様々な診療、研究を行っています。
C型肝炎に対しては直接型抗ウイルス(DAA)製剤が投与可能となり、目覚ましい進歩を遂げました。現在はソホスブビル、ベルパタスビル配合剤が非代償性肝硬変に保険適用となり、ほぼ全てのC型肝炎患者さんで治療可能な時代となりました。当科では北海道内の関連施設とNORTE study groupとして連携し、北海道から新たなC型肝炎治療の知見を発信しています。初めて慢性腎不全透析患者に対するダクラタスビル/アスナプレビル治療の有効性を報告した他、臨床的に意義のある様々な研究を行っています。
B型肝炎に対しては、エンテカビルに加えて2014年にテノホビル、2017年には副作用の少ないテノホビル アラフェナミドフマル酸塩(TAF)が保険適用となりました。今後は免疫抑制や化学療法に伴う再活性化や、B型肝炎の最終目標であるHBs抗原陰性化をどのようにして目指すかが課題となります。北海道ではHBVキャリア率が高いため、HBVに起因する肝硬変、進行肝癌の患者さんが多く、B型肝炎に対する核酸アナログ治療の治療効果や脂質代謝への影響、再活性化に関連する研究を報告しています。
このようにウイルス性肝炎の診療は大きく進歩しましたが、いまだ自身の感染を知らない、あるいは知っていて未通院の患者さんが潜伏しています。当院では全国に先駆けて2015年に、院内肝炎ウイルス陽性者に対する電子カルテアラートシステムを導入しました。北海道における肝疾患診療拠点病院としても活動しており、2017年より北海道肝炎医療コーディネーターの養成を開始し、北海道内での肝炎ウイルス治療の促進、均霑化に取り組んでいます。また、自治体における肝炎ウイルス陽性者のフォローアップ体制の確立を目指すために札幌市や北海道と連携して活動するとともに、北海道肝疾患専門医療機関における非専門医での肝炎ウイルス陽性者拾い上げに取り組んでいます。
肝癌
肝癌高リスク群の発癌前からのスクリーニングによる早期発見を心がけ、発癌後は肝細胞癌の各期における治療をマネージメントすることが肝臓内科医の重要な仕事となります。肝細胞癌の初期の患者さんには腫瘍因子や背景因子をもとに、外科的治療やラジオ波焼灼術を中心とした経皮的局所治療を、さらに進行した患者さんに対しては肝動脈化学塞栓術、肝動注化学療法、門脈腫瘍栓や転移性骨腫瘍などに対する放射線治療、全身治療薬を使い分けています。北海道大学では肝癌に対する陽子線治療も臨床応用されており、移植外科もあるため、肝移植への連携もスムーズに行えます。肝臓外科や移植外科、放射線診断科・治療科と毎週キャンサーボードにて密に連携し、その患者さんにとっての最適な治療法を選択しています。
特に当科ではラジオ波焼灼術を中心とした経皮的局所治療を積極的に行っています。治療前には腫瘍の大きさや個数のみならず、腫瘍の肉眼型にも留意して慎重に治療導入を決定しています。Volume Navigation Systemやソナゾイド造影超音波を併用することにより腫瘍同定の精度を上げ、治療効果の向上を図っています。毎年50例程度にラジオ波焼灼術を施行し、広い焼灼範囲を得られる次世代マイクロ波アブレーションも導入しています。分子標的治療薬としては長らくソラフェニブ1剤でしたが、2017年にレゴラフェニブ、2018年にレンバチニブ、2019年にラムシルマブ、2020年にアテゾリズマブ、ベバシズマブ、2021年にカボザンチニブ、2023年にデュルバルマブ、トレメリムマブと次々に新規治療薬が保険適用となりました。これらの進行肝癌に対する全身薬物療法に対する臨床および基礎研究は、NORTE study groupにおいても最重要課題として取り組んでいます。
脂肪性肝疾患
最近は非B非C肝癌が増加し、特にアルコールや非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)などの脂肪性肝疾患が主要な原因となっています。特にNAFLDはポストウイルス時代の研究課題として取り組んでおり、肝生検による病理診断を積極的に行い、超音波やMRエラスト等による線維化診断、遺伝子研究を行っています。さらに、2014年度より脂肪性肝疾患における網羅的な糖鎖研究を開始し、現在はAMED坂本班「肝線維化の非侵襲的評価のための血清・肝組織糖鎖バイオマーカーの探索と実用化に関する研究」にて、糖鎖研究を継続しています。
肝硬変、肝不全
肝硬変に対する診療もここ数年で大きく変わってきました。2013年水利尿薬であるトルバプタンが肝硬変に対する体液貯留に対して保険収載され、肝性脳症にも次々と新規薬剤が登場しました。当科でも肝硬変に対するトルバプタン治療における治療効果や長期予後といった臨床上非常に重要な報告をしました。また、現在の肝硬変診療ガイドラインの作成にも関わらせていただきました。現在、北大単独で国内第1相試験を行った肝線維症治療薬であるVA-Liposomeの第2相試験が開始され、現在症例集積中です。
その他
自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎などの自己免疫性肝疾患、鬱血性肝疾患、先天性肝疾患など幅広く診療しています。重症の急性肝不全における最後の砦として、全道より患者を受け入れ、肝移植グループと連携して治療に当たっています。
業績
近年論文数が飛躍的に増えてきました(図1)。以前はHCVが研究の中心でしたが、数年前よりポストウイルスの時代を見据え、肝硬変やNASH、肝癌など研究の多角化に努めてきました。2019年以降は10本以上/年となり、IFも高い医学雑誌に受理されるようになりました。今後も研究成果を確実に業績に出来るように、グループ全体で頑張ってまいります。
さいごに
肝臓グループでは日常における肝疾患診療の研鑽だけでなく、高度先進医療や治験、検査法や治療機器の開発に携われます。また、研究を通じて、病態について深い知見を学び、臨床医としてさらなる高みを目指すことができます。当グループでは、毎年2名の若い先生が学位を取得し、卒業したグループ員の先生は主要な関連施設で大学と連携しながら共同研究を行っています。当グループでは肝疾患の基本的な診療から基礎研究、論文作成までしっかりと指導しますので、若い先生の参加をお待ちしています。
文責:小川 浩司(2023年8月)
基礎研究
肝臓グループでは、in vitro、in vivo実験を主体とする基礎研究と臨床検体を用いたトランスレーショナルリサーチを積極的に行っています。以下は主に医学部の大学院生・薬学部の学生が大学時代、または卒業後に継続して行った研究とその成果となります。
C型肝炎ウイルス研究では、独自の培養系を樹立し新規薬剤候補の同定(JMV 2017)、薬剤耐性ウイルスの薬剤感受性の検討(Hep. Res. 2019)、次世代シークエンサーと臨床検体を用いた薬剤耐性ウイルスの検討(Hep. Res. 2018)を行ってきました。現在は、ウイルス排除後肝病態を中心とした研究を行い多くの報告を行っております(PLOS One 2018、Sci Rep. 2021, 2021、2022, 2022, J Viral Hepat. 2021、2022、Hepatol Res. 2020, 2021、BMC Infect Dis. 2021, Viruses 2023)。
B型肝炎ウイルス研究では、B型肝炎ウイルスの自然免疫回避機構を明らかにし(JMV 2017)、その機構に着目した新規の薬剤スクリーニング系を構築しました。同スクリーニング系を用いてB型肝炎ウイルスに対する新規治療薬の開発を行う事を目的として新規のAMED班が2022年度より坂本教授を班長としてはじまり、現在までに新規薬剤候補として2件の特許申請を行いました。また、HBVの代謝や腎障害といった肝外への影響を検討し、TDFの新たな脂質代謝への関与を明らかにした報告(J Gastral 2021、Hep Res 2020、PLOS ONE 2022)を行い、B型肝炎治療において重要となるHBs抗原量低下とIFNλの関係についても報告しております(Hep Res 2022)。また、TAFの高いHBV再活性化予防効果を前向き試験としては初めて報告しております。(JMV 2023)。更に、HBVと共感染するHDVの本邦におけるprevalence を数十年ぶりの報告を行いました(Hep Res 2023)
NASHに関しても、多くの検討を重ねており、早期の線維化予測マーカーを同定(Hep Res 2022)しております。肝硬変については、サルコペニアとの関連の検討を数多く行い、カルニチンのサルコペニアへの有効性(Hepatol Commun. 2018)、適切なPMI値の同定(Hep Res 2021)、CT検査の有用性(JCSM Rapid Communications 2020)、Overestimated renal functionとサルコペニアの関連とその予後への影響(Nutrients 2021、Hep Res 2022)も明らかにしました。
肝癌については、cancer stem cell に着目した研究を行い、その維持に転写因子KLF5が重要である事(Cancer Biol. Ther. 2015)、現在進行肝癌に多く使用されるLenvatinib がFGFR1-3シグナル抑制を介して肝癌のcancer stem cellを抑制する事(Carcinogenesis 2020)を明らかにしてきました。さらに、growth factor、cytokine、画像診断に着目し、治療効果、肝予備能変化の予測マーカー研究を行いました(JGH Open 2019、Cancers 2021,2022、PLOS ONE)。更に近年問題となる、irAE hepatitis についての本邦における集計のほぼfirst reportも報告しております(JGH 2020)。レンバチニブ治療は有効でありますが食欲不振が大きな問題となります。その予測因子としてFGF21を同定して報告しております(Cancers 2023)。
このような肝疾患の多岐にわたる分野において、大学院生が中心となりトランスレーショナルリサーチ・基礎研究で成果を上げて頂き質の高い研究を行う環境が整いつつあります。